羽田空港事故~ペット客室持込問題~
羽田空港における衝突事故という過酷事態が起きた。
日航機側の乗客においては最悪で入院や怪我程度で済んで本当に良かった。日航乗務員の日頃の訓練の賜であろう。
また乗客においても概ね落ち着いた行動により滞りなく避難が行われたようである。
その中でペットが2匹亡くなったと言うことで議論や署名が沸き起こっているという。
貨物扱いに対しての日頃の鬱憤も出ているのだろうか。
航空機と他の公共交通機関の違い
電車などでは客室に同乗できるのになぜ航空機はダメなのかという疑問意見が見られる。
これは事故後における行動に対する想定による違いと考えるのが妥当だ。
今回の事態もそうだが、航空機事故では事故発生後に一分一秒も無駄にせずにその場から脱出しなければならない、というケースが多い。
揮発性やエネルギー密度も高い燃料への引火・発火リスクというものを航空機は常に抱えている。
今回の様に着陸時の事故が多数だし、飛行中の事故であっても、まずは不時着をしたとしても、いずれにしろその時に発火するリスクはある。これは地面との摩擦熱や火花による引火や燃料系統からの漏れが不可避だからだ。
今回の事故もこの範疇に入る。
一分一秒を争い、生死に関わる危機から緊急避難すべき事態では人命優先であることは論議の余地が無い。
一方で電車の地上を走行するものではそのようなことはまずない。大概は事故が起きた瞬間でほぼ生死が決まる。
怪我の状態が悪く一刻も早く病院へ、とか、このままでは高所から落ちてさらにという事態もゼロではないが、レアである。
事故現場からの回避においては、その場所へいても事態は変わらないので、移動するという意味合いになる。
この場合は可能な限り手荷物を持って降りても問題は無いし、もちろん犬猫のケージを持ってもらっても支障は無い。
避難と言うよりは移動という方が適切である。
なぜ赤子は良いのにペットはダメなのか
泣く(鳴く)という点では同じと言うが、赤子は意外とすぐに泣き止んだりする。すぐに泣き疲れるからだ。
一方で犬猫は1時間でも鳴き続ける。これは単純に体力差にかかっている。
赤子は何も考えずに全力で泣くのですぐに疲れ果てるが、犬猫は適度に力加減をしたり休みながら鳴き続ける知能はある。
また人間と動物の違いというのももちろんある。これは動物の特性上、異種の鳴き声に過剰反応するのは当然だ。
緊急事態での対応について考える。
まず手荷物、特にケージのような大きく硬いものを持って避難行動するのは許されない。
一分一秒を争う中では生死を分ける行為になることが経験上分かっているからだ。
狭い航空機の室内においても邪魔になるし、怪我の要因となる。
なによりも脱出時の滑り台を傷つけることで空気が抜けて使えなくしてしまう可能性が高いからだ。
これはハイヒールすらも禁止である。
滑り降りるときにはバランスを崩して転がり落ちることも当然ある。
硬い突起物や金属製のもの、中にいるペットを含めキログラム単位のケージを持っていたら当人はもちろんのこと、周囲の人間にも一生残るような怪我、または致命傷を負わせてしまう可能性もある。
バランスを崩して転がり落ちる中、これを自分自身で抱えきれるほど、一般人の力は強くは無い。
転がり落ち、最後は頭から地面に落ちればそれで命を落しても不思議ではない。航空機の出入り口の高さを考えれば容易に分かるだろう。
階段での上り下りでも私は怖いが、あれを滑り台で降りるのは恐怖だ。
赤子を抱えながらでもこのリスクはある。だから、赤子を連れての飛行機搭乗に異を唱える人だっている。
それでも”人間”であるから許容されるべき、また、将来ある子供に対して許容すべきという論も一方にある。
しかしそれをペットが同様という論議には全くならない。
持ち込み許容論
客室内持ち込みに関してすら様々な論議がある。
仮に持ち込みができたとしても、緊急脱出時にはケージを持つことは許されない。ましてやケージを開けることもダメである。
万一にも逃げ出したら機内がパニックになるから当然である。
つまり置き去りにするしかない。選択肢は無い。
当然ながら、今回の機内映像を見るまでも無く、機内は火であぶられ温度が上昇、煙や臭いが充満しつつあり、周囲の人間達は恐怖心を感じている。
繊細な犬猫がこのような中で平常・平静でいられるわけが無い。
生半可な飼い主が抑え込んで抑えきれる道理が無いのだ。
成人男子でも、成猫やチワワのような小型犬ですらパニックを起こして暴れているのをきちんと押さえ込めている図を想像できない。
ただの散歩で、小さい犬、若い成人男子、リード付き、これ以上簡単な条件はないのだが、これですらきちんと犬を制御できていないのをいくらでも見かけるから信用ならないのだ。
一方で赤子は暴れてもたかがしれている。そもそも逃げ出さない。周囲の状況を完全には理解できないのもある。
犬猫は周囲の状況を把握し、自分の身の危険を理解しているからこそ、身体能力の限界すらを超えて暴れる。その差は大きい。
高度に訓練された介助犬であれば許されるだろう。しかし、ただの、いや、まっとうにしつけをされていることすら不明な犬のケージを開けるなど論外である。
ここで譲歩するなら、一定の訓練を受けた犬であれば許可する、という考えはある。
犬の愛護団体で認定基準を作り、準国家資格基準まで認めさせることができれば私も許容できると思う。
通常の「ペット」レベルでは程遠い話である。犬どころか飼い主の教育すらまっとうにできていないのが日本のペット事情の実態である。
その状況を大幅に改善してさらに越えたところにこの話はある。仮にいまから取り組んだとして何十年後の話だろうか。
ペット愛好家達の持ち込ませてほしい、という言葉には全く説得力が無い。
「災害、非常時には、モノとしてでは無く家族として、最善を尽くす権利を。」などと言う意味不明で全く抽象的な言葉で言われてもまったく理解・納得が出来るわけが無い。
最善って何ですか?ケージは動かせない、開けるのも不可。その制約下で何をしたいんでしょうか。自分は脱出するのは最後で良いのでお別れを言う機会は与えてほしい、というのなら理解はできます。でも、最後に機長が脱出する前には一瞬の躊躇も無く終わらしてもらわないと困ります。その程度しか論理的・物理的に不可能です。
いささか非常識ですが、このような考えもしてみます。
ケージから出さない、つまり初めからケージに入れずに赤子のように抱きかかえ続ける、これで機内持ち込みするという考えです。
機内乗り込みから到着し降りるまで、それが1時間なのか2時間なのか、その犬猫を紐などであなたの体に括り付け、抱きかかえながらずっとその状態を維持するのです。
もちろんその犬猫を絶対に暴れさせてはなりません。鳴くのは原則として禁止です。少なくとも鳴き続けさせるのは禁止です。
なお、脱出時でかまいませんので、手足に袋をかぶせ、口には猿ぐつわをしてください。牙や爪で滑り台を傷つけるのを避けるためです。
それならば緊急時には抱きかかえながら一緒に脱出することを、私は許容できます。
なお、万が一管理不備で逃げたら緊急着陸となり、それに対する損失・賠償は飼い主に全てかかるのは至極当然のことです。
さて、こんなことできますか?無理ですよね。最大限譲歩しても無理な方策しか出てこないんです。
航空機はかなり一般的になりましたが、ほんの50年前ですら、航空機による海外旅行は一般庶民には遠いものだったのですから。
空を飛ぶという特殊性故に、まだまだ制約が大きいのです。
あくまで人命優先
仮に求めるものがあるのなら以下の話になります。
まずは人命救助、つまり全員の脱出が大前提です。
その次に助けるべきなのは貨物室に入っていた動物たち。次善として彼らを助けるために貨物室の入り口を開け、荷物よりも優先してケージを出し、安全なところに移動させる。これにおいて最善が尽くされる体制か、この点です。
これを求めて行く、というのならまだ話の筋としては妥当です。
今回のケースで言えば、避難完了から2分後には全体に火の手が回っていたという点、それ以前に火の回りのせいで8箇所中一番前と一番後方の3箇所にしか避難口が確保できなかったこと、貨物室の出入り口がどこなのかの詳細は不明ですが普通に考えて真ん中に近いだろうという点、これらを考えると安全を確保してそこに入ってケージ2つを持ってくるのは不可能と考えるのが妥当でしょう。
そもそもいつ爆発するかわからない、燃えさかっている機内に入る、目的が人命救助ならまだしも誰かのペットだなんてないです。億単位の大金を積まれたならまだしも、普通は嫌だと考えるのが普通の人間というものです。
権利には対価を
例えば機内持ち込みはファーストクラスなら可にしても良いのでは無いでしょうか。
さらに言えばファーストクラスより上位で他の人に迷惑がかからないよう、防臭・防音・防飛散毛等の配慮をした完全個室(閉鎖空間)を作ってもらう。これならペットと自由に遊びながら旅行ができますね。
これでも緊急時避難はできないので、対策として専用の脱出口を装備してもいいでしょう。
やればやるほど価格は跳ね上がっていきますが、需要があれば供給があるのが自由経済社会です。
権利をと言うのならその対価をキチッと払っていただければ、その権利は提供可能かもしれません。
そういう方向で要求を出せば通りやすくなるのは当然のことです。
当然ながら現在のファーストクラスの数倍になるのは間違いないでしょうが。
それでも権利というのなら言ってもらうのは構わないと思います。
そのための署名というのも別に自由でしょう。
数万人規模の人が、年一回は利用するという需要を示せば、航空機会社や航空機製造会社も動きますよ。
(なにせ超ファーストクラス=高収益ですからね)
その程度の覚悟も無いのならただの戯れ言でしかないです。
「ペットは家族です」という気持ちを私は否定しませんし、尊重もします。
ただし、それは趣味の領域であり、その気持ちは尊重すべきというだけですから。
人権のように根源的なものであり、無償で配慮すべきものとは程遠いです。
海外では客室持ち込み可能・・・だから何?
海外では持ち込み可能な航空会社もある。
そのことを言って同様の対応を求める声もある。
あたかも対応していれば今回の事故で助かったかのような言い方をしている人がいる。おかしな話だ。
現実はその各社においてもペットは「持ち込み荷物」。
また国内の航空会社の中にも同対応はあるが緊急時にはペットは置き去りにする旨が明記されています。
海外各社は明記していないから勘違いしている人もいるようだが、緊急脱出時には荷物持出し禁止はグローバルスタンダードなので、結論として一緒に旅ができても、緊急時にはペットと共に脱出はできないのは至極当然。
国内会社が明記しているのは多くの日本人はこういう当たり前の推定ができないから書いているのだろうと容易に推測できる。
つまり、今回の事故において仮に持ち込み可だったとしても、ペットの生死の結果は同じということになる。
持ち込み可にしても「緊急時にペットを助けたい」という想いはなんら解決しないのです。
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