フォルクスワーゲン不正とか“杭打ち”問題とか
不正の横行
不正の横行とも見える問題が様々に発覚している。
常に考えなければならないのは、「特異な問題」なのか「これは氷山の一角」なのかである。
私の感覚では後者であるとしか思えない。
チェックシステムへの最適化
不正として片付けられるが、両者とも(本来は)チェックシステムがあったのにも関わらず、それをすり抜けた、ということである。
データの改竄であっても、その改竄を見抜けないのだからある意味“ザル”である。
一つは形式化・儀式化している場合があるためだ。
チェックシートに担当者判断や担当者を信じて検査員が根拠も無しにただ印をつけている。
問題になるかならないかは別として、多かれ少なかれ社会人なら身に覚えがないだろうか。
もちろん私にもある。現場にいればそれに抗う術は存在しない。
現場ではその問題を議論する余地は存在していない。
今回の“不正”も私には“日常茶飯事の出来事”にしか見えない。
杭打ち問題も、単に「杭の数だけ計測シートが揃って」いさえすればチェックに通るシステムなのだろう。
足りない、もしくは問題のあるデータがあったとして、本来は“やり直し”になるのだが「そんなことは許されない、なんとかしろ」と上から言われれば、当然の帰結として改竄を行うことしか(その場の)解決方法はない。
常態化すれば、何をやればチェックに通るか、というのが見えてくる。
今度はあの担当だからここさえきちんとやれば・・・という考えだす。
どこまで“手を抜けるか”も判ってくる。
これが“チェックシステムへの最適化”である。
このことを責められるのだろうか。
例えば、受験などで完全に自分の学力知識だけで試験に臨んだ人はどれだけいるのだろうか。
よほど簡単な試験でもなければ、誰もが多かれ少なかれ“試験対策”をする。
どの試験も“傾向”があるので“対策”を打つ。
私はこういう試験対策は生理的に“嫌い”だったが、それでも追い込み時期には“赤本”を買って“予行練習”ぐらいはやった。
マークシートも初めてでミスや不慣れによる損をしたらツマラナイので模試などを受けて、ある程度慣れるようにした。
時間配分や最後に判らなくてもとりあえず“塗れ”などというのも教わった。
そんなもんである。
問題を作った人がその問題を事前に漏らした大学教授の事件もあったが、それは最たるものだ。
今回の事件は司法試験という世間でもトップクラスに重い資格試験で起きたから大問題になっただけで、多かれ少なかれ似たようなことはあるだろう。
公に「ここ今度の試験に出るから」と先生が言うことすらあるではないか。
厳密に見ればこれもおかしな話ではある。
まあ、定期試験は学力を習得したかではなく、授業をきちんと聞いていたかを問うもの、という指摘もあるから、そういう目的ならば間違ってはないのかもしれないのだが。
チェックシステムは適性か
例えば入試試験では年ごとに問題作成者を変えるという対策を取っているところもあるようだ。
そうすると傾向がぶれるので傾向と対策が取りにくくなる。
それでも“周期で予測する”というのが受験産業である。
考えるべきはそのシステムが適性・的確かどうかである。
いくらたくさんチェックシステムがあっても、的を射ていなければ単なる時間の無駄だ。
歴史があり大きな会社ほど、問題が蓄積され、起こりにくくなっているが、似たようなチェックが継ぎ接ぎ的に構築されており、それが“大企業病”の一因となるという別の問題を引き起こしやすい。
フォルクスワーゲンの問題では「ハンドル操作がなかったら」「試験であると考えて」対応した、と伝えられる。
対応とは「排ガス浄化装置をフル稼働させる」ということのようだ。
試験場では“でっかいコロ”か“ジャッキアップ”して自動車の試験をすることが多い。
その場で車輪が空転するように車輪の下に丸い棒(コロ)で支える。
ある程度負荷をかけないといけないのでこの場合は“コロ”の上だろう。
なぜ通常使用で浄化装置を止める(システム的に外す)かと言えば、その装置を動かすとトルク(パワー)が落ちる、燃費が悪くなるというデメリットが生じるからだ。
なぜこの不正がバレたかというと、ある団体が実車での様々な実運転に対しての排ガスの状態を色々確認したかっただけのようだ。
別に不正を暴こうとかではなくて、ごく自然に自動車の現状把握をしたかっただけのようだ。
単に世界的に“ポピュラーな”VWのあの車が選ばれただけ、ということらしい。
ところが出てきた結果を見て驚き(そりゃ桁違いの悪い値が出れば驚く)通報に至ったようだ。
実動作とテスト動作の乖離
つまりは実運転で試験をしていれば容易に見抜けたということでもある。
しかしそれは実際には難しい。
別に排ガス規制だけの問題では無い。
もうずっと言われ続けている「カタログの燃費と実燃費」の乖離である。
最近はエコカー人気やらで性能=燃費なのか、と言いたくなるほどだから余計に問題となってしまう。
いわゆる日本での“燃費”とは“JC08”と呼ばれる“走行パターン”で走ったときの燃費である。
当然走行パターンは人によって差があるし、これにはエアコンやヒーターで食う燃費は含まれない。
更に言えばこの問題は自動車だけでは無い。
家電での“消費電力”という指標も非常に難しい問題を抱えている。
具体的にテレビを例に取って説明したいと思う。
テレビで言う“定格電力”というのは、ある状態での消費電力を指している。
最近のテレビは様々な“エコ機能”があるので実態の消費電力はずっと低かったりする。
定格電力は180Wと記載されているのだが、店頭で測りながら地上波放送を映している状態では100W辺りを行ったり来たりする風景もよく見る。
そこで“年間消費電力量”という指標もある。
ある時間つけてある時間は消している、“一般家庭”の使用想定で一年間使ったらどれだけになるか、という計算である。
当然一日中つけっぱなしの人からみれば少ない値だし、殆ど見ない人には大きい数字となる。
それでもこれはいわゆる待機時電力も入ってくるのでより近い数字であるといえる。
最近はここにも“インチキ”が横行しているとも聞く。
この電力は映像表示モードが「標準」であるとして計算する。(メーカーが最も推奨するモードで、普通に買って設定をした場合になるものとされる)
ところがこの“標準”の時に画面がかなり暗く設定されているものがあるという。
テレビは画面の明るさで大きく消費電力が変わるので、数値上良く(少なく)するには暗くするのが簡単である。
店頭ではほとんど「ダイナミックモード」に設定されるのが慣習なのでお客さんには判らない。
私にはこのモードは画質最悪な白飛び黒つぶれなので当然標準にするのだが、私から見て格段に暗くなるものも実際に見ている。
当然お客さんからクレームが起きる場合も考えられるが、その際には「明るさ」を変えたり「ダイナミックモード」に設定するという説明をして逃げていると考えられる。
良心的な店は初めから標準にしているところもある。(ダイナミックは画質が悪いし最近は常時は消しているぐらいで、電気代も食うからということもあるようだが)
見ると“笑えるほど暗い”ので当然売れないようで、しばらくしてみるとそのメーカーの扱い自体が消えていたりする。
しかしこういうのは“カタログ販売”つまりネット販売では“騙され”やすい。
実動作と適切なテスト
テストというのはどうしても“性能機能の一部を切り取って”やるしかない。
限られたリソースの中でやらなければならないので難しい。
理想を言い過ぎれば、コストや時間的にあり得ないものになってしまう。
最近は特に複雑だ。
様々な条件で動的にきめ細やかに動作を変えるものが作られ求められる。
ダイソンの掃除機に対して、他のメーカーの掃除機に対して“クレーム”をつけている。
これも消費電力だが、他メーカーは吸引力が落ちてきたらパワーをあげて(当然消費電力をあげて)いることは不正だというのだ。
消費電力テストではゴミを吸い込まずに“空回し”なのでこの“不正”に対応できていないようだ。
従来はなかった“エコ機能”が測定数値と実態との乖離を生んでしまう。
もちろんダイソンは“吸引力の変わらない掃除機”がウリなので自分の長所を大きく打ち出している“宣伝行為”とも言える。
掃除機は(モードは別として)常に消費電力が一定である、という前提が崩されつつあり、それにテストが対応できていないと言える。
この場合はある一定のゴミを実際に吸い込みながら運転を続け消費電力量の総量を提示する、等が必要となってこよう。
それでも“ゴミ”が再現可能な素材形状である必要性など、実態との乖離が生じやすい。
テストには限界がある
消費者としてはテストやチェックには限界がある、ということをもっと自覚する必要があろう。
そう考えたときにやはり原発の審査基準に思いが行ってしまう。
審査基準もテストやチェックの一種である。
当然限界があり、一定の不信を持つのがむしろ本質的で必要なことでさえある。
テレビの電気代が思ったより高かった、マンションでの不正すらどうでもいいくらい、原発事故の深刻度は地球規模で重大なものだ。
「世界一厳しい」すら怪しいものだし、よしんばそうであったとしても基準に疑いはある。
IAEAも認めた、としても、所詮は彼らも原発側の人間である。
また、その運用方法に問題があれば、全体の問題となる。
杭打ち問題では、末端でのデータ捏造があった。
データ検証システムの杜撰さもあるし、多重下請け構造の問題もある。
多重下請け構造における問題なんぞは電力会社がその代表選手ですらある。
本質的に疑いを持った方が自然である。
「審査基準をクリアしたから安全」なんて考えが甘すぎる。
単なる「ペーパー審査」と「運転前審査」でしかないからだ。
それだけでなぜ安全が担保されるのか、理論的におかしいのである。
そこまで重い話でなくても、様々な試験・テスト・チェックは「何をしているのか」を知っておくことは重要だろう。
例えば自動車の燃費基準であるJC08とはどういうテストなのか、それが実際に自分の運転パターンと照らし合わせると見えてくるものがあると思う。
自動車はJC08に合わせて燃費のチューニングは多かれ少なかれ行っている。これを非難しても意味が無い。
燃費を何より重視するのならJC08を“見倣って”運転すれば燃費が良くなる、とも言える。
例えば定常運転で60km/h走行と、50km/hとでは燃費が何割も違う場合もある。(これは私の車の燃費計機能での話だ)
郊外で周りの流れに合わせると60km/h以上になることは珍しくは無い。しかしそれを“抑えれば”かなり違ってくると言える。
急加速が良くないことは知られているが、緩やかすぎる加速もトータルで良くないこともある。
低速すぎると却って燃費が悪いので“適切な加速”を見いだす必要がある。
私の車ではだいたい40km/hが燃費が良さのピークに見える。
よって極力30km/h~50km/hあたりの状態に収めるか、停車(アイドリングストップ)状態にしておくことがコツとなる。
住宅の話で言えば、自分の目で見る、というのも重要であろう。
日本の“青田買い”習慣が問題ともいわれるが、逆に言えば購入を決めてから建てられている過程を見ることが可能とも言える。
もちろん工事現場に勝手に入ることは危険だが、例えば後は内装の段階で一度内覧を要望するとか、基礎を一通り打った状態で見せて貰うとか、そういう“関与”が重要と言われている。
昔の一軒家は注文住宅が多かったために、現場の指揮官である棟梁との顔合わせや現場の人と顔見知りになったりするし、田舎なら差し入れとかしたりする。
棟上げは「セレモニー」なので施工主であるお客さんを呼ぶのが常識ですらあるようだ。
実家の隣の家で全面取り壊し新築があったが、コンクリ基礎の中に昼飯の弁当のゴミを放り込んでコンクリを流し込んだという。
ある意味常態化している行為らしいが、良く聞く話だが、いくら見えないからと行ってゴミをお客さんが住む下に放り入れるという感覚が私にはムカツク。
知り合いの元大工からすれば「あり得ない感覚」だそうだが、昨今の“組み立て住宅”やらいわゆる“大工という職人不要”の中で収入減や嫌気がさして辞めたような感じなので異端の感覚なのかも知れないがそこは判らない。
思い入れが強く、理想を言い過ぎる人間が減っているのは確実なことだとは思う。
「テスト・チェックに通りさえすれば良いでは無いか。」そういう人間が比率として多くなっていく。
“成果主義”はそれをさらに助長する。
成果とは何で評価されるのかを考えれば当然の結果である。
過剰品質と言われるジャパンクオリティは成果主義がなかった時代の遺物である。
今はその時の“勢いの残り滓”で保っているに過ぎない、そんな感覚がある。
それは海外企業への依存などでもどんどん破壊されている。
学校でさえも試験対策の塾やらの発達・競争で“通ることが目的”という度合いが高くなる一方だ。
東大や上級大学姓との質の劣化も根っこは同じなのだと思う。
昔は本当の意味で「勉強の好きな、できる子」だけが入学できた。
ところが「塾でしっかり対策をしてきた子」が増えれば、全体の質の劣化は当然の結果である。
だからこそ自衛するしかない。別に試験やチェックを否定する訳ではない。
試験に通ったというのは、あくまでその試験に通っただけのことである。
盲目的に通ったから良いのでは、と思うのではなく、どういう試験なのかを知り、少なくともそこはパスしただけに過ぎない、という見方をすべきである。
そこが自分にとって不満なら自分で確認するか、試験を変えるように要求するかである。
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