インボイス制度の2大問題点+1
悪名高きインボイス制度。これの何が問題なのか、真に問うている人は非常に少ない。
著名な経済評論家などでも「わかっていない」人が実に多い。嘆かわしいというか、底が浅くて嫌になる。
私も基本はインボイス制度は進むべき正道と思っている。
しかし現在導入された制度設計や細かい運用が余りにも杜撰でアホなのでダメ制度であり、イジメや経済損失、ひいては日本全体としての成長力低下を招くと言われるのだ。
賛成している人の多くはこの「基本部分」つまりうわべだけ見て「賛成だ。反対する奴がおかしい」と言っている。
帳簿方式と請求書方式
日本において、殆どの企業、特に大企業を始めコンピュータ化を進めてしまっていた企業においては帳簿方式から抜け出せない。
これは日本の古くからの商慣習ということだろう。
帳簿方式とは、自分の会社で帳簿を持って、それを元に取り引きを行っていることを言う。
典型的な手順としては、まず見積もりを持ってそれを帳簿に記録する。
見積もりを元に発注をしたらそれを帳簿につける。
ものが届いたら確認(検収)をして帳簿を元に支払をする。月末締めでまとめたり、支払サイトと言って数ヶ月後に支払う。この辺は会社による方針次第。
「そんなの普通、当たり前じゃ無いか」と思うだろう。
その通りで日本においてはほとんど例外なくこの商慣習で誰もが疑問なく行っている。
一方で請求書方式とはなにか。
ものを納める側が「これは○○円の商品です。ここに振込んでね」とかいう形でものと一緒に請求書を渡す。
買った方はその請求書額に従って支払う。個人でものを買う場合は殆どこれだな、と思うかもしれないが、会社等でこれでやっているのは特殊であるといっても良い(本業ではなく経費に類するものぐらいだろう)。
ところがインボイス制度というのは「請求書方式」であることを前提としている。
驚くべきことである。ほとんどの企業が帳簿方式で運営しているのに、請求書方式強要してきているのだ。
もちろんこの辺は財務省も反発されるのは理解していて「原則」という言葉でごまかしており、様々なごまかし(緩和策)を弄している。
それゆえに様々な歪みをもたらしているのだ。
列記するとキリが無いのでひとつだけ極分かりやすいことを言えば、「帳簿で計上した額」と「請求書の額」が異なることが充分ありえるのはごく当然だ。
いままでは請求書と言っても結構雑で良くて、納品書(金額が書いてない)なのか請求書なのか曖昧なものだったり、税抜きで書いて消費税は別途とかそういうのでもなんら問題は無かった。もののやり取りの場面では言ってみればものと数量のエビデンスがきちんと残っていればよかったのだ。そしてそれと照らし合わせる形で、お金のやり取りについては帳簿の方で検証する。
単価というのは設定上で小数点以下もあったり、量り売りだと小数点以下になったりもする。当然税金も計算上小数点以下もでる。
小数点以下はどうするのかといえば、切り上げ、切り下げ、四捨五入は好きに決めて良い。つまり人(会社)により差が生じる。
また、品目毎の消費税計算なのか、請求書毎の消費税計算なのかでも差違が生じてくる。
だからこそ請求書(納品書)においては従来ある意味ルーズで良かった、問題がなかったのだ。
消費税分は買う方が細かいところは決めてもらっても売る方は特に困らない(その額を納めるだけなのだから)。
ところが適格請求書というのは中途半端に要件が曖昧で、つまらぬところで厳密になってしまっている。
そして、あくまで売る方が請求書を出すことになっており、それが「正」であるのが問題なのだ。
買う方から見れば社内は帳簿方式で運用しているのに、請求書方式で対応しろというのだ。
その辺は「弾力的で良いよ」と財務省はしているのだが、一方で曖昧さも生んでしまう。最悪だ。
「結局どうすればいいのかわからない」という混乱を招き、不満を生んでしまう。
最終的には「税務署の判断」という非常に属人的な話になっている。
「最悪のケース」を想定して訳の分からない対応をとる/指示する部門(会社)だって生じる。
うまく収まった場合はさほど不満が出ないのだが、様々な要因でくすぶり続けてしまう不幸な事柄もある。
せっかく電子化したのに結局手作業が復活する部分も発生する。
これは特に「経過措置」などという「財務省連中はよかれと思ってやっている」(実際には言い逃れのためにやっているとしか見えないのだが)措置のせいで電子化することはできず、それがなくなるまで手作業を強いられることも生じる。(よほどの金持ち企業でも無い限り、1,2年で消滅する特別な仕組みを金をかけて電子化してもらえる訳がない)
これは「免税業者が課税業者に円滑に移行するための救済措置」などとごまかしているが、せいぜい数年で消えるような子供騙し措置であり、数年でそれ以降は結局満額払うような話である。一方でそれを受け取る側も特別な処理を行わねばならず、両方とも不幸にしかならない。
こういった複雑で訳の分からない制度設計や運用が、個々人における温度差を生んでいる。
システムが吸収したり経理部門などが吸収するのが現実の対応となる場合もある。だから一般社員は「インボイスなにそれ?」という一方で経理部門が面倒な仕事が増えただけ、という場合もある。
ここが最大の問題であろう。
免税業者潰し政策
免税事業者潰しの政策であることは間違いない。
そもそも免税事業者とは何か。現在は年商1000万円以下の事業者を言う。
あくまで年商である。この年商ならほぼ個人であり、よくて近親者がほぼ給与なしで手伝っている程度だろう。
この年商で給与なんか満足に払える訳がないのだから。当然ながら給与が年商を超えるわけが無く、自分の手元に残るのが実質給料であって数百万にも満たない場合だっていくらでもあるだろう。
要するに一般労働者で言えば「貧困世帯」なのだ。
経常利益や純利益なんて考えたこともない。自分の給与を決め打ちして計算して赤字、なんて計算をするのだろうか。それで連続赤字で倒産なんて意味不明だろう。法人税も払えない。消費税分も取引先から曖昧にされてもらえているのかの認識もできない。
値切りに耐えながらも、ともかく入金してもらえるのがいくらなのかが問題だ。
会計もはっきりいえば杜撰としか言いようが無い。全部一人でやっているのに会計なんか丼勘定しかできない。
そんな状態はやむを得ない、というよりも、事業本質に全集中させるべきだからこその免税事業者ではないのか。
1円単位の請求書ひとつで揉めたりなんかやっていられないし、させるべきではない。
そういうことはもっと大金を動かせて会計担当を雇えるぐらいになってからで十分ではないのか。
よく「預かった消費税を懐にいれやがって」と言う人がいる。
これは「生活保護なんかで暮らしやがって」とか「低所得者だからといって税金減免とか許しがたい」と同じレベルの話なのだろう。
そもそお生活保護なんかするな、低所得者からもきっちり所得税を取れ、雑所得からも1円から税金の取れ、などという論もあるだろう。
私はその論を完全否定する気は無いが、実際にこれらの政策が行われており、一定の社会においける合意が形成されている。
それならば、ある程度売上が上がるまでは、ほぼ個人事業者(フリーランス)などから、中には未来の金の卵になるかもしれないスタートアップの人達もいるかもしれない、からは税金を免除してあげる、少なくとも面倒な消費税は免除してあげるというのも一つの適切な保護政策である、と私は考える。
今回のインボイス制度はこれをぶっ壊している、というのが大問題なのだ。(一部の心ある国会議員はこのことを国会でもキチンと問題提起している。一方で財務省は実質回答を拒否し逃げ回るばかりで胸糞が悪い)
ここでその人達(事業者)から買う方の企業等の視点からで説明していく。
インボイス制度では免税事業者から購入するとその消費税分は還付されない。
これがインボイス制度における最大の問題である。(財務省としてはこれをきちんと巻上げるのが主旨であるのだろう)
私の言う主旨であれば、この還付を(制度導入と同様に)行うべきである、という主旨である。
これが免税業者の免税措置という実態になるのだ。
財務省は実にやり方が汚いのだが、インボイス制度の本旨は「軽減税率と通常税率の品目を明確にすることだ」などと言っている。
それならばこの還付については誰から購入しようと(請求書の金額が正しいのは当然の前提)行うべきなのだ。
この制度において汚い制度設計をしていて「消費税を納めていない事業者が発行した請求書は認めない」結果として「還付しない」という一見正当に見えるかのような論理を振りかざしている。
少なくとも事業者であれば誰であっても還付を認めることが、結果として免税事業者の免税措置になる。
この論理が若干難しいために一般人には理解が難しいので、騒ぎ立てるのが一部の人間だけということになり、財務省のプロパガンダに乗っかっている人達が結果として財務省の援護射撃を行っているという構造になっているのだ。
「お客様から預かった消費税をネコババ」の類の(言っている当人からしてみれば)非難の声も、私からみれば「またバカを言っている」としか見えない。
そもそも「預かった」などと言うのは財務省のプロパガンダに引っかかっている愚か者の言うことであって、消費税というのは付加価値税であり、事業税の一つであることが(これは裁判所の見解や国会において)明らかになっている。
その事業税分を、おおぴらに購入者に対して価格転嫁しても良い、ということになっているだけの話だ。
もう一つ重大な問題は免税事業者との取り引き打ちきりの発生である。
還付がされないことは入手コストの増加を意味する。故に「免税業者との取り引き打ち切り」が生じやすい。
円安をはじめエネルギーコストなどの上昇による価格転嫁が円滑に行われない、というのはいうまでもない。
これすら認められないのに消費税の価格転嫁が円滑に行われる訳がないだろう。
これはさすがによく言われることだが、
免税事業者のままでは、取引先にとっては還付が受けられないからその分値下げしろといわれる。
値下げ拒否すれば取り引きを拒否される。
課税事業者になれば、現状維持の取り引きは継続されるが、納税義務が出るので収支は悪化する。
その分の値上げは受け入れてもらえない。
どっちにしても事業者が苦しくなるのは必然の結果なのだ。
政府等は「対策を取っている」といって問題ないと言い張っている。
実際に公取委等も頑張っているようだ。
しかしそれは所詮「明らかにアウト」の事例に限られるだろう。
”賢い”企業はそんな明らかにアウトなことをやりはしない。
いくらでもグレーゾーン、脱法手段なんか思いつくのである。
私がすぐに思いついたのは「免税事業者からの購入時は(金額を問わず)決裁処理が必要であるとする」だ。
別に取引きを禁止はしていないし、高額ならどこであろうと決裁を要求している。だから問題は無い、と言い切れば良い。
しかし実際に現場はどう思うだろうか。
ただでさえ決裁は面倒で通らない可能性も高い。いちいち理由書なんか書いていられない。急いでいるので決裁が承認されるのを待っていられない。じゃあ、もうここから買うのはやめよう。なんてことになるのは容易に想像がつく。
取引先には「もっと安いところがあったから」で終わりだ。
なぜいまさら大騒ぎしているのか
以前から制度は公表されているし、なにをいまさら、もっと前からやっておけよ、という論もある。
それは正論という部分も否定はしない。
しかしそれは制度がまともならば、という前提がある。
その辺りの話を書いておきたいと思う、
この制度の問題は非常に複雑でわかりにくい制度である。
そもそも消費税の仕組みが財務省のプロパガンダによって歪めて伝えられてきたため(これは「消費者からお預かりした」という表現が典型的な事例である)、正確に知っている人が非常に少ないからである。
導入時からいびつな制度であったが、今回のインボイス制度も複雑でいびつでグチャグチャで分かりにくい制度になっている。
複雑なことが本質的に仕方ないのならまだしも、明らかに制度の歪みをごまかすためにさらに訳の分からない制度にしているのが見えてしまうから腹立たしいのだ。そもそも税というのは簡素であることが重要であるとされているのに明らかに反している。
法文を読んでも良く分からないので、財務省(国税庁)のホームページの解説を読んでもなお判りづらい。
そこで放置してしまった人が多く出たのも問題なのであろう。
そしてさらに問題なのは、この難解さから多数の質問苦情が殺到したのであろう、解説やQ&Aが逐次増えていったようだ。
これは私も困ったのだが、最初は解説や法文を見て「こういう解釈なのかな」と推定したのだが、後にQ&Aで私の結論と異なる見解が書かれているのを発見してしまい驚いてしまった。
私からしてみればその見解を読んで「いやいや、どう考えても私の解釈が妥当だろう」としか思えなかったのだが、国税庁のQ&Aにそういう見解を書かれてしまってはどうしようもない。
そしてその見解に従うと実際に話を展開していくと様々な問題が生じることが判明していったのだ。
(だからこそ私の解釈が妥当だろう、というバイアスがかかった部分も否定はしない)
「じゃあ、結局お前が悪いのだろう」という部分も完全否定はしない。
しかし、そもそも、様々な解釈ができるような法文、解説をしてあれば、ここはこれは許容範囲、個々の裁量範囲なのだな、と思うのが普通だろう。
しかしそれを後から否定するようなQ&Aを載せることが実に腹立たしい。
なければまだ税務署等とも「論議」できるのだが、Q&Aで出されていれば「見てない方が悪い」になるからだ。
それ故に初めから税務署有利、こちらは圧倒的に不利なのがも腹立たしい。
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